米STORY 大坪教授からのメッセージ

新潟大学農学部応用生物化学科 大坪研一教授イメージ

「米を巡る研究の紹介」

  • 新潟大学農学部応用生物化学科
  • 大坪 研一

世界の人口が増加する中で、一人当たり耕地面積の減少、水資源の不足、気象変動の増加、穀物のエネルギー利用の増加など、食料を巡る情勢には厳しいものがある。今後、中国やインドなどの人口大国の経済力が向上し、畜産物消費が増加すれば、飼料穀物消費も増加して、穀物需要が増加し、食料需給はさらに逼迫するものと予想されている。わが国の食料自給率(カロリーベース)は、1961年度には約80%だったものが、2006年度には39%に低下しており、米などの国産農産物の生産と消費の拡大が必要とされている。

私は、2008年3月末まで、つくば市にある(独)農研機構食品総合研究所に所属し、米の食味、品種判別、加工利用などに関する研究を行ってきた。

消費者の良食味志向を受けて、各地で良食味米が育成され、新潟県コシヒカリを頂点として、宮城県ひとめぼれ、山形県はえぬき、秋田県あきたこまちなど、良食味米の生産割合が増加している。米の食味は、官能検査(試食試験)と、物理化学的測定によって評価される。前者は最も基準的な方法であり、総合、外観、味、硬さ、粘りなどの項目で評価される。後者はタンパク質やアミロース含量などの食味関連成分の分析や米飯物性測定などを行って食味を推定する方法である。筆者らは、精米粉末の糊化粘度測定に基づく物性・老化性評価装置を開発するとともに、外観、物性などの項目ごとに機器分析を行った結果を統計処理(多変量解析)する多面的食味推定方法の開発に取り組んでいる(図1)。

2007年は「偽」という字が注目されるほど、偽装表示が頻発し、消費者の食品表示に対する信頼が揺らいでいる。米の場合は、日本農林規格(JAS法)に基づいて、品種、産地、産年の表示が義務づけられている。筆者らは、PCR法を利用するDNA品種判別技術の開発に取り組んできた。PCR法は、変性、結合、伸長という3工程を数十回反復することによってDNAを100万倍から10億倍程度まで増幅する技術である。従って、米や米飯のような極微量のDNAしか含まない試料にも適用が可能であり、対象DNAの塩基配列に基づいて増幅が起こるため、品種同士のDNA塩基配列の僅かな相違を検出することが可能という利点がある。1995年から研究を開始し、改正JAS法が施行された2000年には、タカラバイオ社からコシヒカリ判別用キットを市販することができた。これは、当時の食糧庁の協力を受けて、全国のコシヒカリ原種では全く同じ増幅DNAパターンを示し、他品種はもとより、ひとめぼれ、ヒノヒカリ、あきたこまち等のコシヒカリの子供品種とも識別できるというプライマーセットである。その後、米加工品からでも原料品種の識別が可能となる「酵素法」を開発し、米飯、餅、米菓などを試料とする、原料米の品種判別や異種穀類の混入検出を可能にする技術を開発してきた。2005年には、いもち病抵抗性に着目して新潟県産コシヒカリを他県産コシヒカリと判別する技術を開発し、キット化することができた。こうした研究に際しては、新潟県農業総合研究所の作物研究センターや食品研究センターと連携協力して開発を行ってきた。この技術を発展させ、最近、日本酒やワインを試料とする原料植物の品種を判別する技術を開発した。共存する麹菌や酵母のDNAは増幅せず、米やブドウのDNAのみを増幅するプライマーを開発し、赤ワイン等に含まれるポリフェノールによるPCR阻害を防ぐDNA精製技術によって、醸造酒からでも原料植物の判別が可能になった。

米の加工利用に関する研究においても、多くの食品企業や公設機関と共同で研究を行ってきた。例えば、最近、新潟大学の生協にも置いていただいている「即席玄米雑炊」は、の玄米を膨化加工することによって、お湯をかけて2分で食べられる食品である。これは、キユーピー社(膨化加工技術)、作物研究所(低アミロース米育成)、食総研(米飯物性評価技術)の3者が連携して開発に至ったものであり、最近、特許も共同で取得することができた。農水省総合食料局の助成を受けて機能性米菓の開発に取り組んだ際は、米菓企業、茨城県工業技術センターと共同で研究を行った。発芽玄米や低アミロース米を原料とする米菓の基本製造技術を企業が開発し、工業技術センターで食味試験を行った。食総研では、各種の消化酵素やフレーバーを包括して生地に混合することによって製品の消化性や食味を改良する技術を開発した(図2)。

2008年4月から、新潟大学農学部に採用していただいた。新潟県は日本の誰もが認める米のトップ産地であり、加工技術も世界の最高水準を走っている。幸い、新潟大学には、農学部の門脇教授、工学部の谷口教授らを中心とする「地域連携フードサイエンス・センター」が6年前に設立され、学部横断的に連携協力して活発に活動していると伺っている。筆者もこれから参加させていただき、米の利用加工に関する地域連携研究開発に取り組んでいきたいと考えている。

新潟に来て春、夏、秋を過ごしたが、四季おりおりの木々の葉の色や空の雲が実に美しく感じられる。先日は、良食味米で有名な岩船に行き、山々を背景にした実っている稲穂を見てきた。稲と米をめぐる研究を加速させ、日本の食料資源と食文化の確保に少しでも貢献できればと考えている。

図1.米の食味評価およびDNA判別に関する研究

■筆者らによる米のDNA判別研究の経過
1995年 精米粉末へのRAPD法適用開始
1997年 RAPD法により上位10品種を識別
1998年 精米1粒を試料とする識別技術
1999年 米飯1粒を試料とする酸素法開発
プライマーのSTS化が可能に
2000年 コシヒカリポジキットの開発
餅の原料米判別技術
2001年 コシヒカリネガキットの開発
2002年 北海道産米キット等の開発
2003年 産地判別、食味判別等への展開
2006年 醸造酒の原料米判別技術の開発

図2.共同研究による機能性米菓の開発例

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